みづちについて

作品情報

  • 作曲白樫 栄子
  • 脚本丹治 富美子
  • 初演2001年(国民文化祭ぐんま2001)
  • 会場群馬音楽センター
みづち作品情報

今までの主な「みづち」公演記録

2001年
主催/群馬県・国民文化祭ぐんま2001実行委員会
会場/群馬音楽センター

2002年
主催/群馬県・群馬教育文化事業団
会場/笠懸野文化ホール(パル)

2004年
主催/財団法人日本オペラ振興会・群馬県・群馬県教育委員会・財団法人群馬教育文化事業団
会場/新国立劇場中劇場

2008年
主催/群馬オペラ協会
会場/前橋市民文化会館大ホール

2015年
主催/群馬オペラ協会主催
会場/前橋市民文化会館大ホール


あらすじ

プロローグ
黒姫山の裾野の村。合唱によって平和な村の様子とみづちの事が歌われる。

第一幕
第一景 黒姫山の裾野の村
平和な村に異変が起きたことが音楽によって暗示される中、小太郎が登場する。逞しい村の若者の小太郎は、アリア「夕星の歌」を歌い、黒姫山の豊かな自然と空の夕星の美しさ、そして、それによって心を慰められることを歌う。 村人たちが三々五々と広場に集まってくる。日照りで苦しむ村の人々、井戸も枯れ、新しい井戸掘りも失敗に終わり、新月の今夜に、神に水乞いを祈る祭りをすることを決める。

第二景 水乞いの祭り
村人の中に不思議な老人が混じっており、老人は小太郎に話しかける。老人は、みづちという雲を呼び、雨を降らせる不思議な生霊のことを小太郎に話し、旱魃の続く村を救えるのはお前だけだ、と教える。村を救うためならば危険にも立ち向かう心の小太郎だが、唯一人の姉、八重を残していくことだけが気にかかる。父母を亡くしてから二人きりになった姉弟を育ててくれた村を救うためならば、と八重は小太郎を鼓舞する、出立の決意を固める小太郎に、八重は告別のアリオーゾを歌う。二人の別離の周囲を、村人たちの水乞いの祭りの喧騒が包み込むうちに幕となる。民謡調のオスティナートの音楽が高まっていく。

第二幕
黒姫山が舞台となる。

第一景 黒姫山の深い森
小太郎が足を踏み入れた黒姫山の山懐は、想像以上に深く厳しい自然が立ちはだかっていた。険しい岩場を登りあえぐ小太郎の耳に鳥の声が聞こえる。その声に懐かしい故郷の歌を思い浮かべるアリオーゾ歌う小太郎。その前に現れた小鳥に導かれるままに歩みを進める小太郎は、突然足をすくわれるように深い穴へと落ちてしまう。台詞と歌との交錯する一種のジングシュピールのスタイルが、ここで用いられている。

第二景 黒姫の住処
岩に囲まれた黒姫の住処に小太郎は案内される。鳥は黒姫の使いであった。黒姫は、村の旱魃のことも、村を救うためにみづちを探す旅に、小太郎が出たことも知っていた。みづちの正体は何か、と黒姫に尋ねる小太郎。みづちとは水をあやつる生霊であり、民を見守り平和に暮らせるために力を貸してくれる神のような存在で、自分はそのみづちの手伝いをしていた、と黒姫は語る。黒姫の供人達、玄武、天河、北斗が加わり、小太郎に説明する。黒姫山の麓にあるいくつかの部族の一つ、悪知恵の働く押黒族が、神の使いのみづちを捕らえ、貢物をよこした部族のところにだけ雨を降らせようとたくらんだ。しかし、水の中に住むみづちを陸に上げてしまったので、みづちの命が危うくなっているという。みづちが死ねば、雨は二度と降らず、この世から水は消えてしまう。そうすれば、小太郎の村のみならず、世の中すべての命が危うくなるのだ。小太郎のみづち捜索の使命は、故郷の村のためだけでなく、より大きな意義を持つこととなってきた。黒姫が続けて語る。吾嬬重藤(あづまのしげとう)と呼ばれる、弓の巧みな部族の党首に加勢を頼み、その娘の夕月姫に水藻の衣を作らせてみづちの体をくるめば、命を吹き返すであろうと。小太郎は黒姫からの話を聞き、大いなる使命感を抱いて旅を進める。

第三幕
締太鼓の勇壮な演奏は、みづち救出の使命を持つ小太郎の旅の勇気と精神の成長を象徴するようにも聞こえる。旅を重ねるごとに、小さな村の個にすぎなかった自分が、大いなるものに目覚めていく不思議な意義を小太郎は感じ始めている。踏みしめる大地の鼓動が全身をめぐり、自然の中に生かされている己を知るのだ。

第一景 吾嬬重藤の館・夕月姫の部屋
十七絃と二十絃の琴の音が、夕月姫の美しさ、優雅さを暗示させる。吾嬬重藤の館では、夕月姫が乳母の志斐に長い黒髪を梳かしてもらっている。宵の一番星の輝きは、母のまなざしの慈愛を思い浮かばせる、と歌う夕月姫の歌は、第一幕第一景冒頭の小太郎の「夕星の歌」との関連性を思わせる。髪を梳かされながら、夕月姫は亡き母のことを志斐と語り合う。思い直したように立ち上がった夕月姫は、水藻の衣を持って来る。姫が身を清め、三日三晩かけて織り上げた衣の見事な出来に、簡単な声を上げる志斐。思う人の衣に髪を織り込むと、戦や旅から無事に戻るという下々の者の言い伝えを志斐に尋ねる夕月姫。夕月姫のことを思い館の庭をさまよう小太郎は、いつしか姫の部屋の近くに来てしまう。志斐に黒髪を梳かされている夕月姫の余りの美しさに、籬のそばに立ちつくす小太郎。自らの黒髪を小太郎のために織りたいと願う夕月姫。小太郎に夕月姫は恋をしているということを志斐は知る。姫の言葉を耳にしてしまう小太郎。夕月姫と小太郎は、互いの胸の内を吐露する「相聞歌」を歌い、さらに互いの心が一つになる二重唱を歌い上げる。翌日、合戦へと旅立たねばならぬ小太郎の別れの言葉に、夕月姫は生きて戻って来てくれとの約束を迫る。姫の真心に応えて、小太郎はみづちを奪還し平和が戻った時に、姫と結婚すると約束する。固い誓いをして立ち去る小太郎。小太郎の武運長久と無事を祈り歌った夕月姫は、小太刀を取り出し、その長い黒髪を切り落とす。

第二景 いざ、出陣
吾嬬重藤は、黒姫よりつかわされた小太郎の立派な様に、自らの人生の旅路の積み重ねを投影し、彼に加勢するだけでなく、愛娘夕月姫も、次の世も小太郎に託そうと歌う。合戦の準備は整った。自軍に檄を飛ばす重藤に、一同も元気に答える。小太郎は敵に対する陽動作戦によるみづち救出の計画を確認する。そこへ髪を短く切り落として若武者の姿となった夕月姫が現れる。驚く小太郎に姫は共に戦う決意を告げる。気丈にして弓、長刀にも優れた姫のこの行動に、父の重藤は笑って同行を認める。姫の身を案ずる志斐は、小太郎に姫を守ることを懇願する。出陣。

第三景 みづちの救出
重藤の檄が歌い上げられる。激戦の繰り広げられる様が、オーケストラによっても描かれた後、みづちを探す別働隊としての小太郎と夕月姫の一隊は、ついにみづちが捕らえられている洞窟にたどり着く。そこで小太郎が見つけたのは、以前村で出会った不思議な老人であった。しかし、その姿は随分とやつれて弱々しく見える。笹の雫をみづちに飲ませる小太郎。夕月姫は傷の手当てをする。夕月姫が織り上げた「水藻の衣」を、小太郎はみづちをくるむように着せる。すると突然、強烈な光とともにみづちは天に上る。そして響き渡る天の声。己の私利私欲のために自然の営みを破壊してはならない。神の警告を無視して、人間は何度もあやまちを犯す。自然を破壊するのも、守るのも我々人間なのだ、ということに気付く小太郎と夕月姫に、みづちは、この美しい地球を守り、永久に伝えてくれと頼み、沼の底へ消えて行くのであった。みづちの教えを胸に刻みつける小太郎、夕月姫、重藤等。

エピローグ
再び平和が戻った。萌木色けぶる赤城山、もみじの錦の美しい榛名山...美しいふるさと。命を生み育む、そして未来永却へ。それを伝え行くふるさとの美しさを讃える中、全曲の幕となる。
(※2004年日本オペラ協会・群馬県共同制作公演パンフレットより転載)